こんにちは。飯田です。
魚の論文を出しました。
Prenatal regression of the trophotaenial placenta in a viviparous fish, Xenotoca eiseniAtsuo Iida, Toshiyuki Nishimaki & Atsuko Sehara-Fujisawa
Scientific Reports5:7855, DOI: 10.1038/srep07855
*オープンアクセス誌なので、どなたでも読むことができます。
表題を直訳すると「
胎生魚Xenotoca eiseniで見られる栄養リボン(trophotaenial placenta)は出生に先駆けて退縮する」になります。
はい、小難しくて訳ワカメですね。順を追って解説します。
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(1)はじめに:「胎生」とは?ご存知の通り胎生とは、母親の体内で受精して胎仔が成長してから出産される繁殖方法です。
一般的には哺乳類で普及した方法として知られています。
しかし、世の中には例外がいるもので、哺乳類でもカモノハシのように卵生で繁殖する種、非哺乳類でも魚類・両生類・爬虫類など多くの分類群に胎生種は分布しています(
図1)。
しかもそれらは、進化の過程で独立して胎生形質を獲得したため、哺乳類に見られる胎盤やへその緒を使わない、ユニークで独創的な機構を各々の種が保持しています。
例えば、サメの仲間では胎仔が未受精卵を(つまりは年の離れた妹や弟を)食べて成長すると言われており、サンショウウオの一種では胎仔同士が(つまり自分の兄弟を)共食いをして成長すると報告されています。
図1:脊椎動物の中で、円口類と鳥類以外には胎生種の存在が確認されている。(2)今回注目したグーデア科とは?硬骨魚類のカダヤシ目に属するグーデア科の魚も、哺乳類とは異なるユニークな機構を持つ胎生種のひとつです。
グーデア科は中南米に住む淡水性の小型魚で、飯田の知りうる中では名古屋にある東山動物園「世界のメダカ館」で複数種を鑑賞することができます。
今回はその中でも
Xenotoca eiseni(ハイランドカープ)という種類を入手して、観察・実験に用いました(
図2)。
図2:ハイランドカープの成魚。(3)グーデア科を飼ってみて分かってきたことハイランドカープは体内受精のために雌雄一対での交尾行動を行います(
動画1)。
交尾から5週間ほどの妊娠期間を経て、1.5cmほどに成長した稚魚を出産します(
動画2)。
動画1:ハイランドカープの交尾行動
動画2:ハイランドカープの出産
稚魚は母体内で母親から栄養をもらうため、肛門周辺から栄養リボン(trophotaenial placenta)という独自の構造物を形成します。
これは腸の組織の一部が伸長したものだと考えられており、哺乳類の胎盤やへその緒とは異なる構造です。
しかしこの栄養リボンは、出生直後の稚魚の肛門部にはほんの痕跡程度にしか見られず、普通に飼育しているだけではその存在に気づくことは困難です(
図3)。
図3:胎仔では肛門部からよく伸長した栄養リボンが観察できるが、出生直後には退縮している。(4)独自の分子機構の発見この研究では、この栄養リボンの退縮に『アポトーシス』と言われる“プログラムされた細胞死”が関わっていることを明らかにしました。
出生が近くなった胎仔では、何らかのシグナルが作用して栄養リボンが自己分解を起こし、産道を通過するのに適した体型に変化する、あるいは出産後に不要になる組織を養分として吸収している、と予想しています。
哺乳類の場合、胎盤やへその緒は赤ちゃんと一緒に出産され、多くの場合は脱落して捨てられてしまいます。
出生後に不要となる組織を養分として吸収する(かも知れない)グーデア科は、この点に関しては哺乳類よりも効率的な胎生機構を獲得したのではないかと考えています。
図4:出生直後の退縮した栄養リボンでは、アポトーシスの特徴が見られる。(5)今後に向けてグーデア科に限らず、硬骨魚類は複数の分類群で様々な胎生種が報告されています。
例えばスズキ目ウミタナゴ科の胎生種では、胎仔は鰭の表面から栄養分を吸収すると推測されており、ヨツメウオ科ジェニンシア属や、タラ目カワメンタイ科の胎生種では、母体内で栄養分を経口摂取していると考えられています。
しかし既存の報告は形態的な記載に依るものが多いため、今回のグーデア科と同様に分子機構を明らかにしていくことが、非哺乳類の胎生機構の全容に迫っていくことに重要だと考えています。
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ということで、子供の頃から目標にしていた「おもしろ動物」の研究で論文を出すことが出来ました。
今後はまだ未定ですが、グーデア科を深めつつ、他の胎生魚や珍魚に触手を伸ばせていければと、さらなる夢を膨らませています。
まあ、そんな感じで。
また当面はお気楽な記事をアップしつつ、次の取り組みに励みます。
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※1月20日追記京都大学HPにも
成果概要を掲載してもらいました。